【出社orリモート?】入社オンボーディング観点で出社の有用性について解説
「リモートワーク or 出社」といった働き方を巡る議論が、AmazonやGoogleといった大企業の動きや変化を起点に、世間でも広がっています。特に、コロナ禍以降、リモートワークが一時的に主流となったことで、多くの企業がそのメリットやデメリットを真剣に考えるようになりました。一方で、社員が物理的なオフィスに集まる重要性を再評価する動きも見られます。
今回は、「入社オンボーディング」の視点で、この議論について述べていきます。新入社員がどれだけスムーズに組織に馴染めるか、影響を与えるテーマです。皆さまの考えるきっかけになればと思います。
なお、「そもそもオンボーディングとは?」という入門的な内容を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

オンボーディングの観点では"出社"の方が効果的
早速、今回のテーマの結論を申し上げると、オンボーディング観点では、「出社した方が良い」という結論を出します。
もちろん、企業の状況や組織文化、新入社員の特性によって、全てを一概に判断することは難しいです。しかし、オフィスワークで得られる恩恵は大きいと解釈しています。
出社とリモートワークのメリットでメリット
まずは、出社とリモートワークそれぞれのメリットとデメリットを整理します。
▼出社のメリット
- 直接コミュニケーションが取れる
- 新入社員の今の業務内容や困り事かが分かる
- 偶発的な交流の機会が多い
- 必要に応じて即時フィードバックができる
- 既存社員や組織の雰囲気を掴みやすい
- 観察学習の機会が多い
▼リモートワークのメリット
- 時間や場所の制約が少ない
- 柔軟で効率的な学習が可能
- デジタルスキルが向上しやすい
- 情報が一元化されておりアクセスしやすい
▼出社のデメリット
- オンボーディング期間は無意識のうちにプレッシャーもかかるので、通勤時間や対面コミュニケーションなどが疲労の原因になる
- 対面でのコミュニケーションが中心となるため、デジタルツールの活用スキルが向上しにくい
▼リモートワークのデメリット
- 直接的なコミュニケーションが限られる
- 必要最低限のやり取りになりやすい
- 偶発的な交流の機会が少ない
- チーム文化の吸収に時間がかかる
- 即時のフィードバックが得にくい
やはり、コミュニケーションの面では、出社とリモートワークで大きな違いがあります。
出社した際には、「新しい組織に馴染めましたか?」「分からないところはないですか?」といった何気ない声掛けや、先輩社員同士のやりとりを見る機会、ランチに誘い合うなどの偶発的な交流が生まれやすいです。
一方で、オフィスワークだからこそ、その場でのフォローに頼りがちで、ナレッジをまとめる習慣が形成されにくい傾向があります。リモートワークを前提とした組織では、業務マニュアルや手順書のデジタル化が進み、いつでもアクセス可能な状態になっていることが多い印象です。
改めて、表形式でまとめます。

オンボーディングにおけるリアル現場での有用性
続いて、オンボーディングを起点に、重要要素を分解していくと、出社の有用性についてより解像度高く見えてきます。新入社員が成果を出せるようになるまでの可視化をすると、次のような要素分解が可能です。
①スキルや知識の習得
②暗黙のルールの理解
③人的ネットワークの構築

これら3点の要素をオンボーディングのプロセスの中で押さえたときに、成果に繋がりやすくなり、その成果が信頼関係に繋がります。
①スキルや知識の習得 ▶︎ 出社による不明点の解消スピード
スキルや知識を効果的に習得するには、必要な情報へ迅速にアクセスできる環境、パフォーマンスに対する適切なフィードバック、気軽に質問できる体制が重要となります。
新入社員は、当然、初めてのことばかりのため、業務プロセスや情報へのアクセス方法に不慣れであり、不明点が生じやすいのが現実です。
情報が適切に整理され、迅速にアクセス可能であることや、質問に即座に対応できる環境が整っていることが求められます。そのような環境を満足に用意できていない場合、対面での仕事の方が柔軟に対応できる傾向があります。オフィスでは直接話しかけることで、ちょっとした疑問にも即時に答えを得られることは、想像がつきやすいかと思います。
②暗黙のルールの理解 ▶︎ 出社による会話機会の創出
この暗黙のルールは、企業にとって競争優位性となり得る一方で、リスクにもなり得ます。
中途入社者が違和感や疑問を率直に声に出せる場合は問題ありませんが、周囲が何事もなく適応しているように見えると、「自分が考えすぎなのかもしれない」と自己完結してしまいがちです。また、こうした暗黙知や雰囲気は、社内の長年の慣習に埋もれてしまい、組織改善の余地が見過ごされる可能性がはらんでいることも、特徴の1つです。
そのため、オンボーディングでは、メンターや先輩社員と気軽に会話できる環境が重要です。わざわざテキスト化するほどでもない「ちょっとしたこと・気になること」を気軽に声に出せることが、新人の不安解消やスムーズな適応につながります。この点でも、出社した際にできる直接的なコミュニケーションが問題解決のハードルが低いという利点があります。
③人的ネットワークの構築 ▶︎ 出社によるリアルコミュニケーション
最後に、社内での人間関係づくりです。
人的ネットワークの構築において特に重要なのは、コミュニケーションの質と頻度です。信頼関係を築くためには、日常的に顔を合わせ、会話を重ねることが効果的です。対面でのコミュニケーションは、言葉だけでなく、表情や態度、声のトーンなどの非言語的な要素も、相手への理解をより深めます。実際、対面での交流がオンラインよりも信頼感や親近感を生み出しやすいという心理学的な研究結果も多くあります。
オンラインでのコミュニケーションは便利で効率的ですが、気軽に質問したり、雑談を交わす機会も減るため、職場での「つながり」を感じづらくなることもあります。この点では、圧倒的に、人的ネットワークの構築には出社が有利と言えるのではないでしょうか。
信頼関係を築くためには、業務に関するやり取りだけでなく、ちょっとした雑談や感謝の気持ちを言葉にすることも大切です。そうした積み重ねが、新入社員が職場で居心地の良さを感じ、結果としてパフォーマンスにも良い影響を与えることになります。
「出社orリモート」の議論の閉じないことも重要

上記のように述べてきましたが、重要なことは、出社とリモートを相反する対立項目として二元論的に考えることではありません。
もっとも重要なことは、新入社員が組織に馴染み、早期に戦力化できるよう、継続的な改善と柔軟な対応を行うことです。組織としてオンボーディングを大切にすると決めることが、持つべき姿勢です。
その結果として、新入社員が組織に適応し、人や組織を知る機会となるオンボーディング期間をリアルで過ごし、仮にリモートワークに移行したとしても、初期に構築した関係性や理解をもとに、円滑に業務を進められるようになるのではないでしょうか。
やはりオンボーディング期間は特に、顔を合わせた上で過ごしていきたいですね。
出社でのオンボーディング有用性についての海外の事例
『Three reasons why the office is key to better employee onboarding』という記事では、オフィスワークでのオンボーディングは、リモートワークでのそれよりも効果的であると話されています。具体的な事例を3つ紹介します。
TINYpulse社のオンボーディング事例
TINYpulse社は、2019年の対面でのオンボーディングと2020年のリモートでのオンボーディングを比較しました。その結果、リモートでオンボーディングを受けた従業員は、同僚が何かで成功したときに周囲から受ける評価や称賛の頻度が、リアルでの交流時よりも、34%低かったそうです。さらには、会社の価値観についての意義や重要性を認識・理解する割合も20%低くなったようです。

TINYpulse社は、このような結果の理由として、リモートオンボーディングでは直接的なコミュニケーションや社会的つながりが不足し、会社の文化や価値観を十分に吸収することが難しかったことを挙げています。
Baron App, Incのオンボーディング事例
次に、国内ではソフトバンクも支援しているBaron App社という米国スタートアップです。
対面オンボーディングでは、新入社員の営業担当者が期待されるパフォーマンスレベルに達するまでに90日かかった一方で、リモートオンボーディングでは、同じレベルに達するまでに9ヶ月かかったということが分かったとのことです。

この大きな差の理由として、リモートオンボーディングでは直接的な指導や即時のフィードバックが不足し、また同僚との関係構築や企業文化の理解が遅れたためと整理しています。
Gallup社のオンボーディング調査
最後に、世界的にも有名な、調査やデータ分析を専門とするコンサルティング企業であるGallup社によると、オンボーディング体験を「非常に良い」と評価した従業員の70%が、「自分の仕事は最高だ」と回答しました。一方で、ネガティブなオンボーディング体験をした従業員は、他の職を探し始める可能性が2倍に増加することが分かりました。
あくまで、少し以前の海外事例のため、全てが現在の国内企業の状況とは一致するわけではないかもしれません。しかし、交流の機会やフィードバックの受けやすさなどは、共通することも多いはずです。仮に、リモートワークでのオンボーディングを行う際には、かなり手厚いフォローが必要になることが、見えてきたのではないでしょうか。
まとめ
今回は「オンボーディングの観点からすると新入社員は出社するべきなのか?」というテーマで記事を書いてきました。
オンボーディングの重要性が高まる中で、より効果的なオンボーディングをするには、初期は対面でオンボーディングをした方がより良い体験ができるのかもしれません。
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