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「目標志向型」と「環境適応型」— 離職タイプとその対策


近年は、職場への違和感やキャリアの方向性に悩み、「一見、順調に見える社員」が突然辞めてしまうケースが増えています。

本記事では、社員の離職を“性格や価値観の違い”に着目し、「目標志向型」と「環境適応型」という2つのタイプに分類しました。タイプ別の予兆や対応策を知ることで、"辞められると困るあの人"の離職を、未然に防ぐヒントになれば幸いです。

成果を出しているあの人が突然退職する…

業務に対するモチベーションが下がっているように見えたり、発言が減ったり、周囲との関わりが希薄になったりする人がいると、なんとなく「そろそろ退職を考えているのかもしれない」と思うことがあります。

しかし、実際に辞める人の特徴は、必ずしもそうしたわかりやすい変化だけではありません。むしろ、一見すると意欲的に働いている人や、成果を出している人が、ある日突然退職を決断することが多いのです。

日頃から不満を口にしていた人が結局辞めずに残る一方で、静かに次のステップへ向けて準備を進めていた人が、ある日ふっといなくなる——そんなケースも少なくありません。単に「不満があるから辞める」という単純な話ではなく、人が職場を去るプロセスには、目に見えにくい心理的な変化や、組織との関係性のズレが大きく影響しています。

離職プロセス ー 離職はどのように決まるのか?

人はどのようにして「会社を辞めよう」と決断するのでしょうか。ある日突然、何の前触れもなく退職を決めるように見えるケースもありますが、実際には離職の決断は段階的に進行することがほとんどです。

ここでは、離職のプロセスを大きく3つのフェーズに分けて解説します。

フェーズ1:違和感が生まれる(気づきの段階)

離職の最初のきっかけは、「なんとなく居心地が悪い」「このままでいいのか?」という漠然とした違和感から始まります。これは必ずしも明確な不満ではなく、職場環境や仕事への期待とのズレとして表れることが多いです。
例えば、以下のような場面で違和感を持ち始めることがあります。

  • 会社の方針や価値観に共感できなくなった
  • 昇進や評価に納得感が持てない
  • 業務がルーチン化し、挑戦の機会が減る

この段階では、まだ「辞める」という明確な選択肢を意識していない人も多いです。ただ、こうした違和感が蓄積すると、次のステップへと進んでいきます。

フェーズ2:解決策を探る(内省と検討の段階)

違和感が強くなると、人はそれを解決しようとします。まず、社内で状況を改善できる可能性を探ることが多いですが、それが難しいと感じると「転職」という選択肢が現実的になってきます。
このフェーズでは、次のような行動が見られます。

  • キャリアについて考える時間が増える
  • 仕事に対する興味や熱意が低下する
  • 転職関連の情報が目に入りやすくなる

特に、相談しても具体的な解決策が得られない場合や、職場の状況が変わる見込みがないと判断すると、転職に向けた具体的な準備を始めるようになります。

フェーズ3:決断と行動(離職の決定)

最後のフェーズでは、離職の意思が固まり、実際の行動に移ります。この段階では、すでに決意が固まっているため、企業側が引き止めることは難しくなります。
このフェーズの特徴的な行動としては、

  • 履歴書・職務経歴書を更新する
  • 有給休暇を使って面接に行く
  • 業務の引き継ぎを意識し始める

最終的には、退職の意思を会社に伝え、引き継ぎを行いながら退職日を迎えることになります。

離職タイプの分類 — 「目標志向型」と「環境適応型」の違い

同じ職場で働いていても、離職を考える理由やタイミングは人によって異なります。 それは、個々の価値観やキャリア観が異なるからです。特に、離職の考え方には大きく「目標志向型」と「環境適応型」の2つのタイプがあり、それぞれが抱える課題や離職のきっかけも異なります。

この2つのタイプを理解することで、企業がより適切な対策を打つことができます。それでは、それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

①目標志向型 — キャリアの理想と現実のギャップに敏感なタイプ

目標志向型の人は、自分のキャリアプランを明確に持ち、その達成を重視するタイプです。「自分はこうありたい」「このスキルを伸ばしたい」「将来的にこのポジションに行きたい」といった強い意志を持っています。そのため、今の会社がその理想に合わないと判断すると、すぐに次の選択肢を考え始める傾向があります。

◇目標志向型の特徴

  • 成長機会や挑戦できる環境を重視する
  • 業務の目的や意義がはっきりしていることを好む
  • 会社の評価制度やキャリアパスに敏感
  • 自己学習意欲が高く、転職市場の価値を意識している

◇離職の主なきっかけ

  1. キャリアの成長が見えない
    「昇進の機会が少ない」「成長できる環境がない」と感じると、外に答えを見出し始めます。
  2. 仕事の裁量が少ない
    目標志向型の人は「自分の力を試したい」と考えるため、指示待ちやルーチンワークが続くとモチベーションを失います。
  3. 上司や会社の方針に納得できない
    自分の価値観と会社の方向性が合わないと、「ここで頑張っても無駄だ」と判断し、転職を考えます。

②環境適応型 — 人間関係や職場環境に影響を受けやすいタイプ

環境適応型の人は、職場の人間関係や雰囲気を重視し、安定した環境で働くことを求めるタイプです。「居心地の良さ」「周囲との協調」「働きやすさ」を大切にしており、スキルアップやキャリアの野心よりも、安心して働ける環境があるかどうかを優先します。

◇環境適応型の特徴

  • 職場の人間関係に強く影響を受ける
  • 明確なキャリア目標は持たないことが多い
  • 安定した業務を好み、大きな変化を嫌う
  • チームワークや協調性を重視する
  • 上司や同僚との信頼関係が重要

◇離職の主なきっかけ

  1. 人間関係の悪化
    上司や同僚との関係が悪化すると、「この職場にいるのがつらい」と感じ、転職を考えます。
  2. 職場環境の変化
    組織再編やマネージャーの交代、新しいルールの導入など、大きな変化があると、適応できずに退職を決意することがあります。
  3. 過度なストレス
    仕事量の急激な増加や、プレッシャーの強い業務が続くと、精神的に耐えられなくなり離職を考えます。

改めて、目標志向型と環境適応型を、表でまとめてみます。

離職タイプの分類 — 「目標志向型」と「環境適応型」の違い

目標志向型は「成長の停滞」が離職の主因となるため、今後のキャリアの道筋を示すことが重要です。一方、環境適応型は「安心できる職場環境」を求めるため、変化へのフォローと人間関係のケアが必要になります。

このように、同じ施策をすべての社員に適用するのではなく、タイプに応じた適切な対応を取ることが、離職防止には不可欠です。

「最近この人大丈夫…?」離職の予兆チェックリスト

離職のメカニズムを理解するうえで、「目標志向型」と「環境適応型」という2つのタイプに分類しましたが、実際の職場では必ずしもこの二元論ですべての人を説明できるわけではありません。

次のチェックリストを参考に問題がないかを確認してみてください。以下の項目のうち、3つ以上当てはまるカテゴリーが、その人の離職タイプの傾向を示しています。

① 仕事への姿勢に変化が見られる

✅ 以前よりも会議や議論で発言が減った
✅ 成果を出しているのに、なぜか満足していない様子がある
✅ 仕事へのこだわりが薄くなり、指示通りに動くことが増えた
✅ 突然、新しいスキルを勉強し始めたり、資格取得に関心を持ち始めた

※危険信号が出やすいタイプ

  • 目標志向型(キャリア成長を求めるタイプ)
  • 挑戦飽和型(一定の達成感を得た後に次を考えるタイプ)

② 人間関係や環境に違和感を感じている様子がある

✅ これまで親しかった同僚との雑談が減った
✅ 上司や会社の方針について、共感より疑問を口にすることが増えた
✅ 周囲の変化(同僚の退職、組織改編)に敏感になっている

※危険信号が出やすいタイプ

  • 環境適応型(職場の雰囲気や人間関係を重視するタイプ)
  • 人間関係依存型(特定の上司・同僚に強く依存しやすいタイプ)

③ キャリアについて考えている兆候がある

✅ 「このままでいいのかな」といった発言をするようになった
✅ SNSやランチの会話で、他社の情報を気にしている
✅ 転職市場の話題(企業の動向、給与水準など)に詳しくなっている

※危険信号が出やすいタイプ

  • 環境適応+野心型(安定を好みつつ、成長の機会も求めるタイプ)
  • ワークライフ調整型(仕事よりも生活の充実を優先するタイプ)

④ 行動の変化がある

✅ いつもより帰宅する時間が早くなっている
✅ 休みの日や有給の取り方が変わった(連休を取り始める、半休が増えるなど)
✅ LinkedInやビジネスSNSのプロフィールを更新し始める

※危険信号が出やすいタイプ

  • どのタイプであっても、すでに転職を具体的に考え始めている可能性が高い

チェックリストでまとめます。

離職の予兆チェックリスト

このチェックリストを活用することで、身近なメンバーの離職の兆候を早期に察知し、適切なアプローチを取ることが可能になります。

すべての人が単純に「辞めたい」と考えているわけではなく、それぞれの価値観や状況に応じた不安や不満が背景にあります。重要なのは、相手のタイプに合わせた対応をすることです。

目標志向型・環境適応型以外のタイプ

今回のnoteでは、まずは目標志向型と環境適応型に分け、わかりやすく書いてきましたが、もちろん全ての人が当てはまるわけではありません。

その他にも、「挑戦飽和型」「人間関係依存型」「環境適応+野心型」「ワークライフ調整型」という分類もできます。

目標志向型・環境適応型以外の離職4タイプ

上記は、次の4象限で分けることもできます。ぜひチェックリストと合わせて、参考にしてみてください。

離職タイプ別4象限

まとめ

違和感が重なり、離職は静かに始まる —— 本記事では、社員の離職プロセスを「目標志向型」と「環境適応型」という2つの視点から整理しました。どちらのタイプにもそれぞれの価値観や葛藤があり、本人の表面上の変化だけでは見抜きにくい兆候があります。

実際に皆様の周りに予兆が見られる人はいませんでしょうか?「最近あの人、なんとなく変わったかも」と感じたら、声をかけるタイミングかもしれません。一律の対応ではなく、タイプに合わせた関わりが、離職を防ぐ第一歩になります。

人は「辞めたい」から辞めるのではなく、「続ける理由が見つからない」から辞めていきます。だからこそ、日々の対話や期待のすり合わせが、何よりも大きな離職対策なのかもしれません。本記事がお役に立てれば幸いです。