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採用が「過去最高」の年に、中堅が最も辞めていた。


2025年の中途採用目標達成率は92.9%。
マイナビが2026年3月に発表した「中途採用状況調査2026年版」によれば、この数字は過去最高であり、前年比で27.7ポイントもの大幅な上昇だった。
採用担当者がこの結果を見て、「ようやく採用が軌道に乗ってきた」と安堵した組織も多かっただろう。

しかし、同じ調査の別のページに、もうひとつの事実が記されていた。
退職によって業務・経営への影響が最も大きかった属性は何か。
その答えは「勤続5年以上の中堅社員(68.8%)」で、20代正社員(66.3%)や新卒社員(65.3%)を上回って最多だった。

採用の入口を過去最高まで広げた年に、組織の背骨を担っていた人たちが最も多く抜けていた。
この二つの事実は、別々のニュースではない。
同じ一枚の調査票の中に、並んで存在していた。

本記事では、この逆説が意味することを解剖する。
採用数を追い続ける組織が見落としている構造的な欠陥と、それを埋めるために何から手をつければいいかを、データをもとに整理していきます。

1. その数字は「採用の成功」を意味しない

92.9%という達成率の裏側には、注意が必要な背景がある。
数字だけを見て安堵している組織は、問題の本質をすでに見誤っている可能性が高い。

「達成率向上」の正体

92.9%という数字には、重要な但し書きがある。
マイナビの調査はこう指摘している。
「採用目標の達成率向上は、採用活動そのものの量的拡大によるもの以上に、人手不足や採用難を背景に採用目標人数を下方修正し、採用計画を現実的な水準に見直したことが影響している可能性が考えられる」。

つまり、採れたのではなく、目標を下げたから達成できた可能性がある。

これは採用力の向上ではなく、期待値の下方修正だ。
組織は「採用がうまくいった」と評価すべき状況ではなく、「採れる人数が構造的に減っている」という現実を突きつけられている。

さらに同調査では、正社員の不足感の焦点が「量的な不足」から「質的な不足」へとシフトしていることも示されている。

採用要件に満たない人材は「採用しない」と答えた企業が62.1%に上り、前年より7.7ポイント増加した。
採用市場は、数を確保する時代から、質を見極める時代へと移行している。

「達成率92.9%」は採用力の証明ではなく、目標水準の現実化の結果かもしれない。

採用数を増やすほど、現場に何が起きるか

採用が増えるとき、現場では必ず何かが起きる。新しく入った人材の受け入れ、教育、フォローの負担が、既存メンバーに集中する。
特に中堅社員は、業務の中核を担いながら、新人の育成や橋渡し役まで引き受けることになる。

この負担は、制度として設計されていることはほとんどない。
「面倒見のいい先輩」「経験のある〇〇さん」という属人的な善意に依存し、評価にも報酬にも反映されない。
採用が増えれば増えるほど、この見えない負担は蓄積していく。

中堅社員が辞める理由として語られるのは「成長機会がない」「キャリアの見通しが立たない」といった言葉が多い。
しかしその背後に、「新人の面倒を見続けることへの疲弊」「組織設計の不備を個人の努力で埋め続けることへの消耗」が積み重なっているケースは少なくない。

「量の不足」から「質の不足」へのシフトが意味すること

不足感の焦点が量から質に移ったという事実は、採用戦略の根本を問い直している。人数を増やすことへの投資が頭打ちになりつつある今、次の問いは「採った人をどう活かすか」に移っている。

ところが多くの組織では、採用予算は厚く、受け入れ設計への投資はほぼゼロのままだ。
媒体費・エージェント費・面接工数には敏感なのに、入社後90日の設計には無関心。この非対称性が、採用充足率の向上と中堅離職の悪化を同時に引き起こしている。

2025年、採用側の数字

2025年、退職側の数字

中途採用目標達成率:92.9%(過去最高)

退職で最も痛手を受けた層:中堅社員(68.8%)

前年比+27.7ptの大幅改善

退職者が発生した企業:49.3%

不足感の焦点が「量」から「質」へ移行

2026年も91.1%が採用に積極的意向

(出所:マイナビ「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」2026年3月)


2. なぜ中堅は「採用が増えた年」に辞めるのか

採用充足率と中堅離職が同じタイミングで起きるのは偶然ではない。組織が入口を広げるとき、出口を設計していなければ、必ずどこかで歪みが表に出る。

中堅社員に集中する「見えない負荷」

採用が増えるとき、誰かがその受け入れを担わなければならない。
制度として整備されている組織は少なく、ほとんどの場合、その役割は「頼みやすい中堅」に自然と集まる。
業務に精通しており、新人の質問に答えられる。
上司ほど忙しくなく、新人には経験値が届かない。
その「ちょうどいい位置」が、中堅を受け入れ負荷の集中点にする。

しかしこの負荷は、評価に反映されない。
育成や受け入れが管理職の評価項目に入っていても、定量的に測られることはほぼない。
「なんとなくやって当たり前」とされ、その分だけ自分の業務が後回しになり、成長機会も削られていく。
中堅が「自分のキャリアが停滞している」と感じるとき、その原因の一部は、採用増に伴う構造的な過負荷にある。

「即戦力前提」が中堅に何をしているか

中途採用が増えるとき、組織は多くの場合「即戦力だから放置でいい」という前提で動く。新人への丁寧な受け入れを省略する理由として使われるこの前提は、実は中堅社員にも大きな影響を与えている。

「自分で何とかできるはず」とされた中途入社者が職場に馴染めず、質問や相談を繰り返す先になるのは、多くの場合、近くにいる中堅社員だ。人事や上司に聞きにくいことを、「話しかけやすい先輩」として吸収し続ける。オンボーディングの仕組みがないとき、その空白を埋めるのは中堅の善意だ。

この状態が続くと、中堅社員は「採用されるたびに自分の仕事が増える」という経験を積み重ねる。採用増がポジティブなニュースとして届く一方、現場ではそれが「また負担が増える」という感覚に変換される。

オンボーディングの空白は、誰かが埋めている。その「誰か」は、多くの場合、中堅社員だ。

転職市場の活況が「抜けやすさ」を加速する

2025年、転職市場は引き続き活況だった。中堅社員にとって、転職の選択肢は以前より格段に広がっている。消耗を感じたとき、「辞める」という決断のコストが下がっている。採用される側の市場が売り手優位で動いている以上、組織が「引き止める力」を設計していなければ、抜けるのは時間の問題だ。

中堅の離職は、新人の離職と違って「予兆が見えにくい」という特徴がある。仕事はこなしており、大きなトラブルも起こさない。ある日突然「転職します」と言われて初めて、組織は痛手を実感する。しかしその時点では、手遅れだ。


3. 「入口の最適化」だけでは組織は強くならない

採用力を上げることと、組織を強くすることは、同じではない。
前者だけを追い続けた組織が陥る構造的な問題と、そこから抜け出すための設計の論点を整理する。

採用予算と受け入れ予算の非対称性

多くの組織で、採用予算と受け入れ設計への投資の間には、圧倒的な非対称性がある。
媒体費、エージェント費、採用担当者の人件費、面接にかかる管理職の工数。
これらは「採用コスト」として集計され、削減の対象にもなる。
しかし入社後の受け入れ設計、オンボーディングプログラム、期待値のすり合わせ、定期的なフォローといった投資は、多くの場合「コスト」としてすら認識されていない。

この非対称性が、採用充足率を上げながら中堅離職を引き起こす構造を生む。
入口を広げることには投資しながら、その人たちが活躍するための環境と、既存メンバーが消耗しないための設計は後回しにされる。

「個人・組織・環境」の三層で欠けているものを見る

受け入れ設計を「個人・組織・環境」の三層で捉え直すと、多くの組織でどの層が欠けているかが見えてくる。

  • 【個人層】新入社員が「何を期待されているか」「誰に何を聞けばいいか」を初日から理解できているか。
    この情報が届いていなければ、近くにいる中堅がその代わりを担うことになる。
  • 【組織層】育成・受け入れの役割が、特定の個人の善意に依存せず、再現可能な仕組みとして存在しているか。
    評価に反映されているか。担い手が分散されているか。
  • 【環境層】採用が増えるときに、既存メンバーの負荷をどう調整するかという設計があるか。
    採用増が「組織全体への恩恵」として届くか、「現場への負担増」として届くかは、この設計次第だ。

中堅離職の多くは、個人の意思決定の問題ではなく、この三層のいずれかが設計されていないことへの、遅れた反応として起きている。

中堅をリテンションする設計とは何か

中堅社員のリテンションを「給与を上げること」だけで考えるのは、問題の一面しか見ていない。
彼らが消耗する原因が「見えない負荷の集中」にあるなら、その負荷を分散・可視化・評価することが先だ。

具体的には、受け入れ・育成の役割を複数人に分散させる仕組みをつくること。育成への関与を定量的に評価に組み込むこと。
採用増に伴って既存メンバーの個人目標を一部調整すること。これらは予算の問題ではなく、設計の問題だ。

そして最も重要なのは、「採用が増えるとき、組織は既存メンバーに何かを負わせている」という認識を経営が持つことだ。
その認識なしに、採用達成率を成果として祝う組織は、翌年も同じ問題を繰り返す。

採用充足率を上げた組織の次の問いは「その人たちを活かせる設計があるか」だ。

おわりに

採用が「過去最高」の年に、中堅が最も辞めていた。
この逆説は、偶然の一致ではない。入口を広げることに集中した組織が、出口と既存メンバーへの影響を設計しなかった結果として、遅れて現れた必然だ。

マイナビの調査が示すデータは、採用の話ではなく、組織設計の話として読む必要がある。
92.9%という達成率を誇った翌年、同じ組織は「中堅が抜けた穴を埋めるために、また採用しなければならない」という状況に陥っている可能性が高い。
このサイクルを断ち切らない限り、採用への投資は消耗戦を加速させるだけだ。

入口を広げる前に、問うべきことがある。「今いる人が、次の人を迎えられる状態にあるか」。その問いに答えられない組織が採用を増やすとき、しわ寄せは必ず、最も組織を支えていた人たちに届く。


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