形骸化してしまう人事評価から脱するためには
新入社員の入社後の定着と早期戦力化を支える、オンボーディングクラウドサービスを開発・提供するOmboと申します。
自社に入社した新入社員が「この会社に入ってよかった」「自分らしく仕事ができる」と感じてもらうなど、組織の従業員体験をより良くするという意味で、今回の記事では、人事評価をトピックに記事を書いていきます。
人事評価の定義とその解釈
「人事評価」と聞いて、どんなワードが思い浮かびますでしょうか。給料、面談、昇進…など様々な単語が出てくるかもしれません。検索をすると、次のように出てきます。
人事評価は、組織がメンバーの個性や職務遂行の過程・結果などを把握して人事処遇・人材育成などの人材マネジメントを展開する過程
出所:コトバンク内『最新 心理学事典』より
上記から得られる解釈は、人事評価は、単なる給与決定の手段ではなく、組織と個人の成長を促す人事マネジメントだということが分かります。
ただ、多くの企業では人事評価が形骸化し、従業員の不満の種になっているとも聞きます。例えば、これらのような不満です。
- 「評価されている実感がない」
- 「評価基準が不明確」
- 「上司の主観で決まっている」
これらは単なる不満ではなく、実は、企業文化や働き方に深く根ざした問題を示唆している可能性があるかもしれません。
安定した組織作りへ
一方で、上記のような状況が改善でき、従業員のモチベーション向上と企業の成長につながる評価制度を構築していくことができれば、安定した組織作りに繋がります。
従業員が自身の成長を実感できる環境を整えることは、企業全体のパフォーマンス向上、ないしは、一朝一夕に作ることができない競争優位性にも寄与します。人事評価を通じて、自己認識力を高めることができれば、メンバーが自分自身で強みや改善点を把握しやすくなり、結果としてパフォーマンスも向上します。
では、どのように人事評価制度は作っていく、もしくは見直していくべきでしょうか。
人事評価の目的と3つの観点
まず、人事評価制度を設計する際には、「何のために評価をするのか」という点が重要になります。前述の通り、単に給与や昇進の判断材料とするだけでなく、「従業員の成長を促し、企業の事業成長のためのマネジメント手法」として活用する必要があります。
一般的に、効果的な人事評価制度には、業績評価、能力・行動評価、情意評価という3つの観点から項目を設定します。
- 業績評価
- 具体的な成果を数値化して評価
- 営業成績や生産性など、定量的に測定可能な指標を用いる
- 能力・行動評価
- 従業員の能力とその発揮度を評価
- 提案力、計画力などの能力が実際の業務でどう発揮されているかを見る
- 情意評価
- 企業理念の理解度や勤務態度を評価
- 挨拶、マナー、前向きな発言なども対象
情意評価、能力評価、業績評価のメリット・デメリット
「成果評価」は、言葉通り、具体的な成果を数値化して評価します。客観性が高く、結果重視であるため、多くの企業で採用されています。
しかし、短期的な成果ばかりに目が向きすぎると、長期的な成長や貢献を見落としてしまう可能性があります。例えば、プレイヤーからマネジャーになった際に、このような問題に陥りやすく、成長企業などでよく見られる事例かもしれません。
「能力・行動評価」は、従業員が持つ能力と、その能力が実際にどれだけ発揮されているかを見るものです。能力と行動を結びつけ、具体的な成果に繋げられるというメリットがあります。
一方で、能力と行動との関連性を適切に評価することが難しい場合もあり、その点には注意が必要です。数字に表しづらい部分の評価は、実際のところ難しいことが多いです。
最後に、「情意評価」は、従業員の働く熱意や勤務態度を評価するものです。例えば、企業理念への理解度や勤務態度(欠勤・遅刻など)、前向きな発言などが含まれます。よく「◯◯社マインド」「◯◯らしさ」といったスタンスが評価項目に入っていると思いますが、これらが情意評価に該当します。
組織文化や価値観を意識させられるというメリットがある一方で、主観的になりやすく、バイアスが入り込みやすいというデメリットもあります。
これら3つの切り口から設定された評価項目は、それぞれ異なるフェーズで重要性が変わるかもしれません。例えば、ベンチャー・スタートアップ企業では短期的な成果重視になりがちですが、成熟した大企業では長期的な育成や文化形成も重視されるべきです。
ベンチャーやスタートアップで立ちはだかる壁
事業拡大期=組織拡大期とすると、多くの事業拡大をしているベンチャー企業は安定期に向かうにあたり、評価の難しさの壁にぶち当たります。
企業フェーズで起きる「私たち(自社)っぽくないよね」の声
企業フェーズが変わる中で、それまで抱えていた「自社らしさ」を離れて、次の自社らしさを探す旅に出るタイミングだからです。これまで評価されてきた行動が評価されづらくなってくると、社内では「◯◯っぽくないよね」という声が聞こえ始めます。
この時期には、人事部門が経営と社員との架け橋となる「コミュニケーション・エンジン」の役割を果たすことが求められます。経営戦略の議論に人事部門が参加し、その意図を現場に共有する役割の重要性が増します。
また、日々発生する問題と長期的課題との切り分けも重要です。
これまでの自社らしさから抜け出して、次の自社らしさを再定義するにあたって、評価制度は大切な役割を担うのですが、その転換期のコミュニケーションをいかに取れるかが大切です。転換期の変化を、人事評価では能力評価だけを変更し、情意評価はそのままにする…などの対応で済ませてしまうと、納得感がないおかしな状況になります。
経営戦略と人事戦略を結びつけていくことこそ、人事部門に求められる役割になります。
評価者スキルの不足と人事評価エラー
一方で、優れた人事評価制度を設計しても、それを運用する評価者(マネジャー)自身のスキル不足では、うまく機能していきません。
評価者のスキルがなく、軽い気持ちで行ってしまうと、「とりあえず真ん中で…」「最近頑張っていたから…」といった曖昧な判断となり、公平性が損なわれてしまいます。
人間が人間を評価する以上、いかに評価基準を明確にし、マニュアルを整え、システマチックに人事評価制度を運営できていたとしても、評価を受けた社員が不満を感じる「人事評価エラー」が発生するのは避けられません。
代表的な人事評価エラーには、次のようなものがあります。
- ハロー効果:ある特定の長所や短所が他の評価項目にも影響を与えてしまうこと
- 中心化傾向:評価が中間値に集中する傾向
- ステレオタイプ:社員の能力や業績を確認せず、評価する側の憶測に基づいて行う評価
- 最近性効果:評価時点に近い期間の出来事を重要視して行う評価
- 寛大化傾向:評価が甘くなる傾向
- 厳格化傾向:評価が厳しくなる傾向
人事評価エラー予防のためにできるアクション
これらの人事評価エラーを予防するために、次の2つを推奨します。
①定期的な1on1を行い、「びっくり評価」を防ぐ
冒頭に触れたように、人事評価はマネジメントです。
解決のためにできることは、残念なことに、決して派手なことではなく地道なことです。期初などに定めた目標に対して、その進捗をしっかりと追っていくことです。目標達成に向けて、PDCAを回せるコミュニケーションを取ることが重要です。定期的な1on1が、びっくり評価を防ぎます。
そう聞くと当たり前かと思うかもしれませんが、現実では、日々の業務に追われ、気づけば評価の時期に…となってしまいます。メンバーは、「自分はあれだけ頑張ったのに」と思っていても、上司は把握できていない状況に。期初で定めた目標も曖昧で、達成状況も感覚的な判断になってしまっている…という状況に直面したことがある方も多いのではないでしょうか。意図的にコミュニケーションする機会を設けることが本当に重要です。
②人事が無理にでも評価に対しての研修を行う
評価は、定着率やパフォーマンスに大きく影響するため、評価者に対する適切な教育は他の業務をストップしてでも行うことが重要です。評価の根拠となる具体的な事実を記録し、マネジャー同士で客観的に評価できる仕組み作りも効果的です。
少し厳しい話ですが、上司が「あなたに評価される資格はない」と思われないよう、信頼関係を築いておくことが大切です。評価というセンシティブな内容だからこそ、日頃のコミュニケーションやフィードバックの習慣づくりは意識的に行っておきましょう。
フィードバックについては、こちらをご覧ください。
https://ombo.cloud/method/q2a862u8t2i2/
人事評価制度の成功には、制度設計と評価者のスキル向上の、両輪でのアプローチが必要不可欠です。継続的な改善とメンバーとの対話を通じて、公平で効果的な人事評価制度を構築・運用していくことが、組織の成長と従業員のパフォーマンス向上につながります。
人事評価の改善には時間と労力がかかるが…
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回の記事では、人事やマネジャーの方々と会話をする中で、よく問題に挙がる人事評価というトピックで内容を述べてきました。
特に、最近感じることは、いかに中長期的な投資を早めに行っていけるかが重要だということです。例えば、プロダクトの機能などは他社に模倣されやすいものですが、企業文化は模倣されづらく、それこそが企業における競合優位性になります。
人事評価も企業文化をつくる中長期的な施策の1つです。
ただ単純に、「良い」「悪い」の評価だけではなく、そのプロセス全体を見ることで初めて真価が発揮されます。
今後、人事評価制度改善には時間と労力がかかります。しかし、それは決して無駄な投資ではありません。むしろ、自社独自の文化や価値観に根ざした制度作りになっていきますし、この取り組みこそ従業員一人ひとりの成長へと繋がっていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。Omboは、人や組織に向き合う皆さまを応援しています。今回の解説が参考になれば幸いです!