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オンボーディングは文化の翻訳と体験である|カルチャーフィットを超えて文化を共に創る【後編】


急成長企業において、カルチャーフィット採用は本当に意味があるのでしょうか?

組織の成長フェーズに応じて企業文化は変化します。「今の文化に合う人」を採用したはずが、環境変化に適応できずに離職するケースも少なくありません。

本記事は【後編】として、カルチャーフィットを軸にした、入社後のオンボーディングについて触れていきます。【前編】はこちらをご覧ください。

入社後にカルチャーは“フィット”させられるのか?

「採用時にカルチャーフィットを完全に見極めることは難しい」と述べてきましたが、次に問われるのは「入社後にフィットさせることは可能なのか?」という観点です。

企業文化は固定されたものではなく、組織の成長や外部環境の変化とともに進化していくものです。そのため、新しく入社したメンバーが自社の文化に馴染むだけでなく、文化の形成に貢献できる環境を作ることが求められます。

カルチャーフィットは適応ではなく共創である

カルチャーフィットという言葉は、しばしば「組織に適応すること」と捉えられがちですが、本質的には「組織と個人が互いに影響し合いながら、共に文化を創ること」です。

企業文化が単なる「型」になってしまい、新しく入った人がそれに合わせることを強制されるような環境では、フィットできない人はすぐに違和感を覚え、結果として早期離職につながります。

逆に、新入社員が自分の価値観を活かしながら、会社の文化に貢献できる環境であれば、文化はより強固で持続可能なものになります。

そのため、企業は「カルチャーフィットさせる」ことだけを目的にするのではなく、「新しいメンバーとともに文化を進化させる」という視点を持つことが重要です。

オンボーディングの役割 – 文化の“翻訳”と“体験”

入社後のカルチャーフィットを促進するうえで、最も重要なプロセスの1つがオンボーディングです。
特に、企業の文化は目に見えるものではなく、言語化しにくい暗黙的な部分も多いため、新入社員に対してそれをいかに「翻訳」し、「体験」させるかが鍵となります。

1. 企業文化を言語化し、ストーリーとして伝える

文化は、「ビジョン」「ミッション」「バリュー」といった形で公式に定められている場合もありますが、実際にどのような行動がそれを体現しているのかは、具体的に伝えなければ理解されにくいものです。そのため、入社初期の段階で以下のような取り組みを行うことが有効です。

  • 創業の背景や事業の意義を、経営陣や現場リーダーが直接語る
  • 企業の文化を体現するエピソードを紹介する
  • 組織内で大切にしている価値観や行動規範を、日常の業務と結びつけて説明する

エピソードでは、「この会社では挑戦を重んじる文化がある」と言うだけでなく、「過去にこういう挑戦が成功した」「こういう失敗も許容された」という具体例を共有する、といったイメージです。

こうしたストーリーの共有を通じて、新入社員が「この会社はこういう考え方を大事にしているのか」と、自分ごととして理解しやすくなります。

2. 実際の業務やチームの中で文化を“体験”させる

文化は、単に説明されるだけでは定着しません。
特に急成長する組織では、文化が変化し続けるため、言葉だけでなく、日々の行動の中で体験しながら学んでいく必要があります。そのためには、以下のような施策が有効です。

  • バディ・メンター制度の活用:カルチャーを体現している既存メンバーをバディやメンターとしてつけ、日々の業務の中で価値観を共有する機会を設ける
  • 振り返りの場を設ける:「この1週間で会社の文化を感じた瞬間は?」など、定期的に文化について考え、言語化する機会を設ける

こうした仕組みを通じて、新入社員はただ「文化を理解する」だけでなく、「文化を体験しながら、自分なりに解釈する」ことができるようになります。

3. カルチャーアッドとは? 馴染ませるだけが正解ではない

近年、「カルチャーフィット」よりも「カルチャーアッド(Culture Add)」という概念が注目されています。カルチャーフィットは「今の組織文化に適応できるか?」という視点ですが、カルチャーアッドは「新しく入る人が、どのようにして文化に新しい価値を加えるか?」という視点です。

例えば、「主体的に動く文化がある会社」において、慎重に物事を進める人材が入社した場合、一見するとカルチャーフィットしないように思えます。しかし、その人が論理的な分析力を活かし、チームの意思決定をより精度の高いものにすることで、結果的に文化にポジティブな影響を与えることができるかもしれません。

企業側も、新しいメンバーを単に「馴染ませる」のではなく、「組織にどのような新しい価値を加えてもらうか?」という視点を持つことで、文化の進化を促すことができます。

文化は「育てる」もの – フィットではなく進化させる

入社後にカルチャーフィットを促進することは可能ですが、それは単に「適応させる」ことではなく、むしろ「文化を共に創る」プロセスであるべきです。そのために、上記で述べてきた通り、

  1. 文化を言語化し、新入社員にストーリーとして伝える
  2. 実際の業務を通じて文化を“体験”させる機会を設ける
  3. カルチャーフィットだけでなく、カルチャーアッドの視点を持つ

といった取り組みが重要になります。
最終的に、企業文化は「決まった形に人を当てはめるもの」ではなく、「人が加わることで進化していくもの」です。

終わりに:急成長する企業における真の競争力

これまで、前編・後編を通して、急成長する組織におけるカルチャーフィットの意味と、その実践の難しさについて考えてきました。

採用時に完全なフィットを見極めることは困難であり、入社後も「馴染ませる」だけでは組織の成長を支える文化は生まれません。
カルチャーフィットを“採用基準”としてではなく、“文化を進化させるプロセス”として捉えることが重要です。

急成長する企業において、文化はトップダウンで決められるものではなく、日々の業務や社員の関わり合いの中で形作られていきます。

つまり、「カルチャーフィット採用は意味があるのか?」という問いに対しては、「企業が文化をどのように捉えるか」によって変わる、ということです。

組織は、人によって形作られるものです。そして、企業文化は“採用した瞬間”に決まるのではなく、“日々の関わり”の中で築かれていくものです。

だからこそ、採用やオンボーディングのプロセスにおいて大切なのは、単なるフィットの確認ではなく、文化を創る人材とともに未来を描くこと。その視点こそが、急成長する企業における真の競争力を生み出すのではないでしょうか。