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【前編】「ウチに合う人」がすぐ辞めるのはなぜ?カルチャーフィット採用の罠


急成長企業において、カルチャーフィット採用は本当に意味があるのでしょうか?
組織の成長フェーズに応じて企業文化は変化します。「今の文化に合う人」を採用したはずが、環境変化に適応できずに離職するケースも少なくありません。

本記事では、カルチャーフィットの本質を解説し、離職の原因や採用時について、掘り下げていきます。後編では、入社後のオンボーディングについて触れていきます。

◇はじめに:カルチャーフィットの本質とは?

多くの人や企業は、カルチャーフィットという言葉を、「自社の価値観や行動規範に合致する人材」といった意味で用います。
例えば、オープンなコミュニケーションを重視する企業であれば「発言をためらわない人」を、スピード感を求める企業であれば「即行動に移せる人」を理想とするようなイメージです。

しかし、カルチャーフィットを単なる「性格の一致」や「価値観の共有」として捉えることには、大きなリスクがあるということも知っておく必要があります。

そもそも企業文化(カルチャー)は、"静的なもの"ではありません。特に急成長する組織では、事業フェーズの変化に伴い、文化自体もダイナミックに変わっていきます。創業期の「とにかくがむしゃらにやる」文化が、スケールフェーズに入ると「仕組み化と効率性」が重視されるようになるのは典型的な例です。

企業の根幹の価値観に共感し、変化の中で成長できるか

このフェーズが変わるタイミングで、「それって私たちらしくない」という声が出はじめ、初期フェーズを支えたメンバーの退職がちらほら目立つようになります。この変化を考慮せずに、「今の文化に合う人だけを採用する」と、組織が変化するタイミングでフィットしなくなる人材が増えてしまう可能性があるのです。

本来のカルチャーフィットとは、「現在の文化に合うこと」ではなく、「企業の根幹の価値観に共感し、変化の中で成長できるか」に焦点を当てるべきです。適応力や学習意欲が不可欠な要素になります。

「変化の中でともに文化を創っていける人」を見極める採用をしていかなければ、短期的にはうまくいっても長続きしない採用になりかねません。

◇カルチャーフィットが原因の離職 – 本当に“ミスマッチ”なのか?

離職した社員から退職理由を聞くと、「思っていた会社と違った」「価値観が合わないと感じた」といった答えが返ってくることがあります。しかし、その背景には、「企業の文化が変化するスピード」と「社員の適応スピード」のズレがあることが多いのです。つまり、入社時点ではフィットしていたとしても、企業の進化に伴い「フィットしなくなる」ケースもあるということは知っておくべきポイントです。

こうしたケースでは、単に「カルチャーフィットのミスマッチ」と片付けるのではなく、企業側の変化に対して、社員がどのように適応できるかをサポートする仕組みが不足していなかったかを検証する必要があるのです。

企業文化ではなく働く環境や仕組みの問題として捉える

カルチャーフィットを理由にした離職の背景には、実は「文化」そのものではなく、働く環境や組織の仕組みがフィットしなかったというケースも多いです。例えば、次のようなケースです。

  • 経営陣や上司のマネジメントスタイルの違い
    文化には共感していたが、現場のマネジメントが合わなかった。
    → 本来であれば、マネジメントの仕組みを見直すことで解決できる可能性がある。
  • 業務プロセスの未整備による混乱
    ベンチャー特有のスピード感には共感していたが、業務プロセスが未整備すぎてストレスを感じた。
    → これは文化ではなく、環境要因による離職。プロセスの整備が求められる。
  • 過度な同調圧力
    「うちの文化に合わないとダメ」とされることで、自分の個性を押し殺す必要があった。
    → 真のカルチャーフィットではなく、「カルチャーを押し付ける環境」になっていた可能性がある。

このように、カルチャーフィットを理由にした離職が、文化・カルチャーの問題ではなく、実は働く環境や組織運営の課題の可能性もあり、これらを見極めることが重要です。「文化に合わなかった」という結論だけでは、本当の問題解決にはつながりません。

離職を減らすために – カルチャーフィットを動的に捉える

では、カルチャーフィットを理由とする離職を減らすために、企業はどのような対策を取るべきなのでしょうか。

  1. 採用時に「適応力」と「変化への姿勢」を見極める
    企業の文化が変わることを前提とし、「現在の文化に馴染むかどうか」ではなく、「その変化に柔軟に対応できるか」を評価基準に含める。

  2. カルチャーフィットを押し付けない
    「文化に合わない人=ダメな人」とするのではなく、多様な視点を受け入れる柔軟性を組織側が持つことが重要。フィットの概念を広げ、異なる価値観をどう組み合わせていくかを考える。

  3. オンボーディングを強化する
    入社後の適応を支援するオンボーディングを整備し、文化への理解を深めるだけでなく、業務プロセスや人間関係の構築をサポートすることで、カルチャーへの適応をスムーズにする。

  4. 組織の変化に対して「オープンな対話」を増やす
    企業文化の変化に伴い、「今の文化はどう変わってきているか」「どの価値観を守り、どの価値観をアップデートすべきか」について、定期的に議論する場を設ける。

カルチャーフィットの問題が離職につながるのは、「文化が変化する前提を考慮していない」ことが大きな要因と述べてきました。文化は静的なものではなく、「企業とともに進化する動的なもの」、その変化を受け入れ、ともに創り上げていける人材こそ、本当の意味でのカルチャーフィットなのではないでしょうか。

次章では、「採用時にカルチャーフィットをどこまで見極められるのか?」という問いについて、より具体的に掘り下げていきます。

◇採用時にカルチャーフィットは見抜けるのか?

企業がカルチャーフィットを重視する理由の一つに、「入社後のミスマッチを防ぎ、早期離職を減らしたい」という狙いがあります。
特に急成長する組織では、企業文化の変化が激しく、既存の社員と価値観が大きくずれている人材が入社すると、組織の一体感が損なわれるリスクもあります。そのため、多くの企業が採用プロセスで「自社のカルチャーに合う人かどうか」を見極めようとしています。

多くの企業では、採用面接で候補者の価値観や行動特性を確認し、自社の文化に合うかどうかを判断します。具体的には、以下のような質問を投げかけることが一般的です。

  • 「あなたが仕事をする上で大切にしている価値観は何ですか?」
  • 「チームで働く上でどのような環境が理想的ですか?」
  • 「これまでの職場で最も働きやすいと感じた理由は?」

このような質問を通じて、候補者が自社の文化と合うかどうかを見極めようとします。

採用面接だけでカルチャーフィットの判断が難しい理由

しかし、こうした面接だけで本当のカルチャーフィットを判断するのは難しいのが現実です。その理由は、大きく分けて以下の3つがあります。

1. 応募者は「理想的な答え」を話す
面接では、候補者は自分を良く見せようとするものです。「この会社に入りたい」と思えば、企業が求めている価値観に合わせた回答を意識的にするでしょう。そのため、表面的なやり取りだけでは、候補者の本音や本来の価値観を正確に把握することは難しくなります。

2. 企業文化の「解釈」が人によって異なる
「挑戦する文化」「フラットな組織」「成果主義」といった言葉は、企業ごとに意味合いが異なります。例えば、「フラットな組織」と聞いて「誰でも自由に意見が言える環境」と捉える人もいれば、「上司の指示を待たずに自律的に動くことが求められる」と考える人もいます。面接で「うちの会社はフラットな文化ですが、それをどう思いますか?」と質問しても、候補者と企業の認識にズレがある可能性は十分にあります。

3. カルチャーフィットは「静的なもの」ではなく「動的なもの」
繰り返しますが、企業の文化は、固定されたものではなく、成長や変化とともに進化していきます。そのため、現時点でのカルチャーフィットだけを重視して採用すると、会社の成長フェーズが変わったときにフィットしなくなる可能性があります。採用時には、「今の文化に合うか」ではなく、「変化に適応し、共に文化を創っていけるか」という視点も重要です。

カルチャーフィットを見極めるための採用プロセスの工夫

面接だけでカルチャーフィットを見抜くのが難しい以上、企業はどのような工夫をすればよいのでしょうか? 以下の2つのアプローチが有効です。

1. 実際の職場環境を体験させる
可能であれば、選考の一環として短期間に、インターンとして実際の職場を見学する機会や業務委託として、実際の業務の一部を体験してもらう施策を取り入れるのも有効です。候補者にとっても、入社前に「実際の職場の雰囲気を知る」ことができるため、ミスマッチを防ぐことにつながります。

2. 文化への”適応力”を評価する
カルチャーフィットを重視するあまり、「今の文化に合う人」を採用しようとすると、組織の多様性が失われるリスクがあります。そのため、採用時には「今の文化に合うかどうか」だけでなく「文化が変わる中で適応できるか」を評価することも重要です。

具体的には、次のような質問が有効です。

  • 「これまでの職場で、文化の変化を感じたことはありますか? そのとき、どのように対応しましたか?」
  • 「これまでの経験で、新しい環境に馴染むのに苦労したことはありますか?」

これらの質問を通じて、候補者の「適応力」や「柔軟性」を測ることができます。

◇採用時に100%の見極めはできない – だからこそオンボーディングが重要

結論として、採用時にカルチャーフィットを完全に見極めることは難しいと言えます。面接や選考プロセスである程度の判断はできますが、それだけでは不十分です。むしろ、入社後のオンボーディングを通じて、「どのようにカルチャーを理解し、適応してもらうか」を設計することのほうが重要です。

次回【後編】では、入社後にカルチャーフィットを促進する方法はあるのか? というテーマについて考えていきます。